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東京地方裁判所 平成2年(特わ)2086号 判決

本籍

東京都目黒区大岡山一丁目二二三五番地

住居

同都世田谷区上馬三丁目一五番二一号

会社役員

西澤由晃

昭和一一年六月九日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

検察官 白濱清貴 出席

主文

被告人を懲役一年六月及び罰金一億八〇〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金五〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(犯罪事実)

被告人は、営利を目的として継続的に株式等の有価証券の売買を行っていたものであるが、自己の所得税を免れるため、右有価証券売買を家族、経営する会社従業員等の名義で行って、その有価証券売却益による所得を秘匿し、また右売却益の所得については、所得税の申告に当たって一切隠して申告しないことを意図した上、

第一  昭和六一年分の実際総所得金額が三億七四九六万五二三八円(別紙1の(1)の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、昭和六二年三月一六日、東京都目黒区中目黒五丁目二七番一六号所轄目黒税務署において、同税務署長に対し、昭和六一年分の総所得金額が三一五一万二七一六円で、これに対する所得税額は既に源泉徴収された税額を控除すると一九二万三七〇四円の還付を受けることとなる旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額二億三五一〇万二八〇〇円(別紙2の(1)の脱税額計算書参照)と右還付税額の合計二億三七〇二万六五〇〇円を免れ

第二  昭和六二年分の実際総所得金額が二億四四九六万四四八四円(別紙1の(2)の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、昭和六三年三月一五日、前記目黒税務署において、同税務署長に対し、昭和六二年分の総所得金額が三一三七万円で、これに対する所得税額は既に源泉徴収された税額を控除すると二九六万五五八三円の還付を受けることとなる旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額一億二四〇五万一一〇〇円(別紙2の(2)の脱税額計算書参照)と右還付税額の合計一億二七〇一万六六〇〇円を免れ

たものである。

(証拠)

判示全部の事実について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書

一  漆山和子及び平野秀樹の検察官に対する各供述調書

一  検察事務官佐藤純夫作成の配当控除捜査報告書

一  大蔵事務官作成の支払利息(配当所得分)調査書、有価証券売買益調査書、支払利息(雑所得分)調査書、謝礼金調査書、雑費調査書

判示第一の事実について

一  大蔵事務官作成の配当収入調査書、紹介料調査書、利益分配当金調査書

一  検察事務官佐藤純夫作成の社会保険料控除捜査報告書、生命保健料控除捜査報告書、源泉徴収税額捜査報告書

一  押収してある所得税確定申告書(六一年分)一袋(平成三年押第一四三号の1)

判示第二の事実について

一  押収してある所得税確定申告書(六二年分)一袋(平成三年押第一四三号の2)

(適用法令)

罰条 判示第一、第二の各行為について

所得税法二三八条一項、二項(懲役刑と罰金刑を併科)

併合罪加重 懲役刑について 刑法四五条前段、四七条本文、一〇条

罰金刑について 刑法四五条前段、四八条二項

労役場留置 刑法一八条

懲役刑の執行猶予 刑法二五条一項

(量刑理由)

本件は、相当以前から株の売買を行っていた被告人が、当初から株売却益による所得については一切税の申告をする意思がなく、昭和六一年、六二年に非課税枠を大幅に超える大量の株の売買を、一部は家族や会社従業員名義を使用して行い、多額の売却益を得ていながら、所得税の申告に当たってはそれを全く隠して虚偽の申告書を提出し、結局右両年度にわたり合計で約三億六〇〇〇万円にのぼる多額の脱税をした、という事案である。そして、年収の一〇倍前後も上回る株売却益がありながらそれを一切申告しようとしなかった申告納税制度を無視した態度、個人の所得税脱税額としては多額といえるその脱税額の大きさ、一〇〇パーセントを超えるほ脱率などを考えると、本件については懲役の実刑も考慮される事案である。しかしながら、被告人は、ほ脱した本税、地方税については既に納付し、重加算税についても一部は納付し、公判審理を通じて本件について深い反省の態度を示していること、被告人は、資本金約九億五〇〇〇万円、年間売上げ二〇〇億円を超える会社の代表者取締役という地位にあり、本件が起訴されたことにより既に会社経営に影響を来たし、さらに被告人が実刑となれば会社の存続自体が危うくなり、二〇〇名を超える従業員の生活にも多大の影響を与える虞れがあることなどを考えると、懲役刑については一年六月に止めて(求刑 二年)、その執行を猶予することとするが、株売却益についての脱税という本件事案の性格及びそれが国民一般の納税意識に与える影響、本件から窺える株売却益についての被告人の納税意識、更には脱税事犯に関する一般予防などを考慮して、罰金刑については、脱税額の半分に相当する額を科することとする。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 松浦繁)

別紙1の(1) 修正損益計算書

〈省略〉

別紙1の(2) 修正損益計算書

〈省略〉

別紙2の(1) 脱税額計算書

〈省略〉

資産所得あん分税額計算書

〈省略〉

別紙2の(2) 脱税額計算書

〈省略〉

資産所得あん分税額計算書

〈省略〉

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